「中国人団体旅行解禁」に踏み切った習近平政権の狙いと“背に腹は代えられない”「苦しすぎる国内事情」

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　習近平主席は個人的には、中国人が海外に「爆旅行」に行ったり、海外で「爆買い」したりするのを、明らかに好ましく思っていない。そのため、こうした傾向に制限をかける措置を、何度か取ったほどだ。海外での外貨の使用を制限したり、帰国時に土産物に関税を賦課するといったことだ。

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　では、そうしたもろもろの事情にもかかわらず、なぜ今回、78ヵ国・地域もの海外旅行を解禁したのか？　その中には、「敵視」しているアメリカや、その同盟国の日本や韓国なども含まれているのだ。

　ある中国人に聞くと、こう答えた。

　「昨年まで丸々3年間も続けてきた『清零政策』(ゼロコロナ政策)によって、習近平政権に対する国民の信頼は地に堕ちた。昨年11月には『白紙運動』(若者たちが白紙の紙を掲げて『習近平退陣！　 共産党退陣！　』などと呼びかけた運動)も、中国各地で起こったではないか。

　『清零政策』の後遺症による経済悪化は深刻で、このままでは各地で、再び『庶民の反乱』が起こりかねない。生活苦にあえぐ庶民は、爆発寸前なのだ。だから『海外旅行に行く自由』を復活させて、国民のガス抜きを図ろうとしたのさ」

　この中国人の言を補足すると、以下の通りだ。

　2012年11月の第18回中国共産党大会で選出された習近平総書記が、翌月に唱えたのが、「八項規定」(贅沢禁止令)だった。これを盾に、「トラ(高級幹部)もハエ(小役人)も同時に叩く」と宣言して、腐敗幹部たちを次々にひっ捕らえた。

　毎晩の『新聞聯播』(CCTVの夜7時のメインニュース)に、高級車に乗り高級時計を腕につけた「腐敗幹部」が無様に捕らえられた映像が出るたびに、庶民たちは拍手喝采した。「八項規定」で景気は悪化したが、売れなくなったのは高級品だった。

　2015年夏に、証券市場を引き締めて株価が急落した時も、庶民は特に悲しまなかった。当時、邦貨で約1100兆円もが消えたと言われたが、「股民」(グーミン　個人株主)だったのは、中国の社会階層で言えば、14億人のうち、上から1億7000万人だけだったからだ。

　2018年春から米中貿易摩擦が勃発した時も、危機に陥ったのは、主に貿易商たちだった。庶民たちは、アメリカに対して強硬姿勢で臨んだ習近平政権を、悪く思っていなかったのだ。

　2021年秋に中国2位の不動産会社「恒大集団」が破綻の危機に陥り、不動産バブルの崩壊が叫ばれた時も、困ったのは、タワーマンションなどに住んでいる「持てる者たち」だった。むしろ庶民たちは、マンション価格がもっと下がった方が、自分たちも買えるかもしれないと思ったほどだ。

　ところが、2020年から3年に及んだゼロコロナ政策は、初めて「持てざる庶民」の生活を直撃した。富裕層は、たとえ数年間収入がなくても、預貯金を切り崩して十分食べていける。だが「その日暮らし」に近い庶民は、ゼロコロナ政策によって収入が途絶えれば、すぐに危機に陥ってしまうのだ。

　加えて、中国には日本のような店舗に対する手厚い「休業手当て」は存在しなかった。莫大な「コロナ予算」は、ゼロコロナ政策用のPCR検査や隔離施設作りなどに消えてしまった。

　かくして、庶民たちの怒りが、初めて習近平政権に向けられたのだ。しかも、昨年末にゼロコロナ政策を完全に放棄したというのに、それから半年以上たっても、一向に景気は回復しない。

　習近平政権が自画自賛している経済の「V字回復」は、CCTVのニュースの中だけのことであり、実際には「L字」(悪化したまま上昇しない状態)だ。そうした惨憺たる経済状況については、先週の本コラムで詳述した通りだ。

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　もっとも、急に海外旅行を解禁したからといって、そうした庶民のストレスが解消されるとは限らない。なぜなら、中国で海外旅行に行ける人たちというのは、高所得層か中所得層に限られるからだ。しかも、ゼロコロナ政策によって生活が暗転し、いまは海外旅行どころではないという中所得者層も多い。

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　8月14日、中国から友人が久々に観光でやって来て、晩に東京・新橋で和食をごちそうした。会食中、しみじみと言った。

　「毎日自由を満喫できる日本人が羨ましい……」

近藤 大介（『現代ビジネス』編集次長）
https://news.yahoo.co.jp/articles/e38def5e1e99e698cd054188875fcdc85141dddc?page=1

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