【ヘンリー・Ａ・キッシンジャー】 元米国務長官 日本も変えた「現代外交の生き字引」世界平和の実現へ邁進

緊迫した世界情勢の中、２０２４年が訪れました。世界は今年、どこへ向かっていくのか。僕はかなり悲観的です。
というわけで本年最初のこの連載は、日本人ではないけれど、日本の運命を大きく変えたこの人について書きます。

１９７０年代の米ソ冷戦の時代、ソ連と中国の国交樹立を極秘に交渉し、７２年にはニクソン大統領の中国訪問と米中関係正常化を実現。
さらに、アメリカがベトナム戦争からの撤退を決めた７３年のパリ和平協定に貢献したことで、ノーベル平和賞を受賞。
「現代外交の生き字引」と異名を持つヘンリー・Ａ・キッシンジャー元米国務長官が２０２３年１１月２９日に
コネティカット州の自宅で死去されました。享年１００。

訃報を聞いたときに「まだご存命だったのか！」と驚いてしまいました。それくらい、遠い歴史上の人物と感じたのです。
百年かけて実現しようとした平和ごと、あの世に持っていってしまうのかとも思いました。

キッシンジャー氏はファシズムの風が高まっていた１９２３年、ドイツのユダヤ系家庭に生まれました。
その１０年後にヒトラー内閣成立。一家はナチスから逃れるため３８年にアメリカに亡命しました。
その３年後、アメリカはドイツに宣戦布告。キッシンジャーは大学での学業を中断し、アメリカ陸軍に入隊。
終戦後、ハーバード大学に入りなおし、政治学の学士学位を取得します。

世界平和の実現に邁進（まいしん）した一方、「日本嫌い」の側面もあったようです。ニクソンに続くようにして
日中国交回復に動いた田中角栄が、なぜロッキード事件で逮捕されたのか？　ここにもキッシンジャー氏の影が見えます。
日本の民主主義など、アメリカの意のままであることが明らかになった事件でした。７７年に政界を引退。
しかしその後も大きな影響力を持っていました。２０２０年春、コロナが流行し始めた際には、こんな発言をしています。

「ＣＯＶＩＤ―１９が終息しても、世界は以前と全く違う所になるだろう。人間の健康への危機は一時的なものになるだろうが、
政治的、経済的激変は何世代にもわたって続く可能性がある」……まったくその通りになってしまいましたね。
なんという先見の明の持ち主か。

日本の政治については、こんなことを言っていました。

「日本の政治家は議論しているだけで、どうにもならない。政治というのはしゃべることではなく行動することなのだ」…
…しかし本気で行動しようとすれば潰すくせにネ、と思ったのは僕だけではないでしょう。
日本はこれから世界とどう向き合うべきか。彼が遺（のこ）した数々の著作がヒントになることは、間違いなさそうです。

■長尾和宏
2024.1/8 10:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20240108-32DCHJ3RUFJXDBBOIF3PSP2PP4/