女子大にトランスジェンダー女性も受け入れ、じわり広がる　日本女子大も津田塾大も

出生時に男子とされ、性自認は女性のトランスジェンダー女性の入学を認める女子大が2025年度までに、本紙の調べで少なくとも全国で6校に増える見通しにある。受け入れの動きが徐々に広がりつつある。
◆「自分の力量を信じて前進していけるよう支援」
　受け入れ方針を公表しているのは、2018年のお茶の水女子大（東京都文京区）の後、奈良女子大（奈良市）、宮城学院女子大（仙台市）、日本女子大（文京区）、ノートルダム清心女子大（岡山市）と続いた。
　今年6月、津田塾大（東京都小平市）が25年度入試から、トランスジェンダー女性に受験資格を認めると発表した。委員会を設け、性自認が女性であることの確認や入学後の対応などをする。
　公式サイトでは高橋裕子学長名で「多様な女性のあり方を包摂していく過程で、自らの力量を信じて真摯しんしに前進していけるよう支援していく。それが、21世紀の女子大学のミッション」とする。
　トランスジェンダー　出生時の性別とは異なる性を自認する人のこと。性別適合手術を受けて戸籍上の性別を変更する人もいるが、変えていない人も少なくない。企業などで性別を気にせずに使えるトイレを設けたり、学校の制服に選択肢を増やしたりする取り組みが広がっている。

　日本女子大は20年3月に方針を決めた後、4年間の準備期間を設け、来年4月入学の学生から受け入れる予定。「十分な対話の時間を取ること、また準備を十分に行うため」という。
　文部科学省によると、トランスジェンダー学生の受け入れはそれぞれの大学・学校設置者で判断しており、学校数などのデータはないという。一方で、小中学校や高校には、自認する性別の制服や体操着の着用を認め、希望する名前で呼ぶなどの支援事例を紹介して、児童や生徒にきめ細かな対応を求める通知を出している。（奥野斐）
◆初の受け入れ決定「お茶の水女子大」　学生の反応は
　5年前、国内で初めて受け入れを決めたお茶の水女子大の当時の学長で、生物学が専門の室伏きみ子名誉教授（76）は「多様な性の存在を認めて、尊重するべきだ」と説く。（森田真奈子、写真も）
　むろふし　きみこ　1947年、埼玉県生まれ。70年お茶の水女子大理学部卒。76年東京大大学院博士課程修了（医学博士）。専門は細胞生物学や生命科学。2015年度から20年度まで、お茶の水女子大学長を務めた。23年4月からビューティ&ウェルネス専門職大（横浜市）の学長を務めている。
　—受け入れた経緯は。
　学長に就いた2015年、大学院への入学を希望するトランス女性と面談し、真摯な思いに『何とかしなければ』と感じた。16年に学内で検討を始め、18年7月に方針を決定、20年4月に受け入れを始めた。私自身は30代の頃、性的少数者が当たり前にいる米ニューヨークで研究した経験があり、迷いはなかった。
　—学生から不安の声は。
　決定前に在学生や卒業生に説明した。驚くほど好意的で、トランス女性を『仲間』と捉えていた。大学として、ジェンダー平等など偏見にとらわれない教育をしてきた結果ではないか。説明会では、生物学者としての見方から、多様な性があることは科学的にも当然と説明した。
◆性のあり方が多様でも何ら不思議ではない
　—なぜ、多様な性があると考えられるのか。
　ヒトの体は胎児期に「女性型」で出発し、Y染色体を持っていると精巣ができる。そこから男性ホルモンが分泌され、体が「男性型」に変化する。だがホルモンの量や作用の仕方などに個人差があるので、性にはいろいろなバリエーションがあり得る。
　生物界に目を広げると、例えば魚類にはホルモンの作用で性転換する種が複数あるように、固定的に「雄・雌」で二分できるとは限らない。動物であるヒトの性のあり方が多様でも、何ら不思議ではない。
　—トランス女性を巡り、女性向けトイレや浴場などの利用を認めれば犯罪を防げず、女性の権利を侵害するという主張もある。
　弱い存在を差別することが目的のように見える。犯罪は個人の問題で、トランスジェンダーとは関係ない。人間を信頼せず悪い方に考えるのではなく、どうすれば少数者が幸せに暮らせるか、という視点も持つべきだ。
◆女性差別がなくなれば女子大も不要になるかも(略)

東京新聞　2023年9月3日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/274460