【ウラジーミル・プーチンとは何者か】 黒海の巡洋艦「モスクワ」沈没で思い出される大統領就任直後の失態

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公開：22/04/26 06:00　更新：22/04/26 06:00

「モスクワ」沈没──。ロシアがウクライナに軍事侵攻して50日が経とうとする4月中旬、ロシアの首都の名を冠した黒海艦隊のミサイル巡洋艦が爆発を起こし、曳航中に沈没した。象徴的な出来事に、プーチン大統領のプライドはいたく傷ついたようだ。ウクライナ側は国産ミサイル「ネプチューン」が命中したものだと発表し、意気揚々としている。

■戦場はリゾートの海

　反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が動画で暴露した「プーチン宮殿」が沿岸にそびえる黒海。筆者も取材で何度かロシア南部ソチを訪れたが、いつ見ても波は穏やか。ただ、色は沖縄のエメラルドグリーンとはほど遠く、黒ずんで見えた。

　ソチやクリミア半島といった「ソ連屈指」のリゾート地を抱えるこの海は、住民が巻き込まれる悲惨な地上戦が起きたウクライナ北部や南東部と並ぶ、もう一つの戦場となった。戦争協力したベラルーシが北の侵攻ルートだとすれば、黒海は南の侵攻ルート。ロシア軍は艦隊を▽地上部隊の揚陸▽ミサイルの発射▽レーダーなどによる防空支援──にフル活用していた。

　ウクライナは2014年、黒海に浮かぶ「不沈空母」のようなクリミア半島をロシアに奪われ、海軍は長らく青息吐息。しかし、プーチンから2月24日に戦争を仕掛けられた後、大きな戦果を収める。

　1カ月後の3月24日、南東部マリウポリ郊外の港で揚陸艦「サラトフ」を撃沈。4月13日には黒海艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦「モスクワ」を撃破し、開戦50日目の翌14日に沈没させた。お値段ざっと約1000億円。一度で最大の損害だったと伝えられる。

「沈没」と聞くと、プーチンには苦い記憶がある。00年8月、筆者が大学生でたまたまモスクワに短期留学していた時のこと。北方艦隊の原子力潜水艦「クルスク」がバレンツ海で演習中、魚雷が爆発し、乗員100人超が死亡する事故があった。

■にやけ顔で「沈んだんだよ」

当日、プーチンは黒海沿岸のソチで休暇中（宮殿はまだない）。モスクワにはすぐ戻らなかった。泣き叫ぶ遺族に冷淡な態度を取ったこともあり、就任間もないプーチンはメディアで猛烈に批判され、人気はがた落ちに。

　今思うと、彼のメディア対策（弾圧）はこの辺りに端を発している気もする。米CNNテレビのインタビューで潜水艦に何が起こったのかと問われ、にやけた顔で「沈んだんだよ」と答えた失態は、もはや伝説と化している。

　巡洋艦をめぐり、ロシア側はウクライナによる攻撃説を否定したが、沈没は事実。プーチンへの皮肉か、故郷サンクトペテルブルクの独立系メディアはこんな見出しで報じた。

「沈んだんだよ」　（つづく）

（文=平岩貴比古／時事通信社前モスクワ特派員）

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